「 ハマムにて 」
neige bleue(ペンネーム)
私は友人と南仏旅行の最中で、その日の午後アルルに到着した。オレンジ色の屋根が並び、空気は乾燥していて7月の日差しはとても強い。ゴッホが憧れた土地に深く感動しながら歩いていたら、ローヌ川沿いに一軒のハマムが目に留まった。ハマムとはトルコ風浴場のことで、日本のサウナのようなものらしい。日替りで、本日は女性の日だと書いてある。
とりあえず中に入ってみると、ものすごい湿気とむっとした熱気で一瞬息が詰まりそうになった。受付の女性に利用料金などを訊いたあと、風呂場を見せてもらうことにする。浴場は思ったより清潔で広く、数名の客が利用していた。
その時大切なことに気が付いた。水着を持っていない。
大風呂に入る習慣の無いヨーロッパ人は全員が当然のように水着を着用していたのだった。
仕方がないので明日にでも出直すと受付の女性に伝えたが、裸でも何の問題もないという。こうなったら旅の恥は掻き捨てだ、と私と友人は裸でハマムに入ることにした。
意を決して突入した時こそ他の利用客の目が素っ裸のアジア人2人に注がれたが、すぐに関心も失せ、思い思いの格好で休みはじめる。
ハマムの温度は日本のサウナよりもずっと低く、長時間快適に過ごすことが出来た。
そして自分たちが素っ裸なことにも十分慣れていた頃、入口の扉が開いた。どうやら白人の観光客らしき団体が様子を見に来たようだ。私たちは既に空間に馴染んでおり、観光客と目が合うとニコリとするくらいの余裕もあった。しばらくすると、扉が勢いよく開いて先ほどの白人たちがぞろぞろと入ってきた。私はちはしばし無言で呆然と彼女たちを見つめた。
全員が素っ裸!!!!
私たちの姿を見てハマムは裸で入るものと勘違いしたらしい。欧米人が躊躇無く人前で裸になるというのはなかなか勇気のいることだと思うが、彼女たちは水着を着ていた人たちよりもずっとずっと楽しそうに見えた。
ハマムの後は、洋服に着替えて甘いミントティーを飲む。サロンはハマムに比べると湿度も低く空気も涼しい。そこで突然可笑しさがこみ上げ、友人とお腹をかかえて笑ったのだった。