第 3308 号2012.06.17
「 携帯メール 」
土屋 久美子(ペンネーム)
「今日は一冊の本に吸い込まれ、面白くて止められず、夕食が遅くなり顰蹙をかいました」
夜、友人から携帯にメールが入った。
さてSさんは夕食のおかずに何を買いに行ったのだろう。老眼鏡をかけ画数の多い漢字を書いてみた。一字目は「頻」に似ているので「ひん」と読むかもしれない。二字目は足がついている。
足を食べるものといえば「たこ」かな「いか」かな「かに」かな。
テーブルの上に並んだ御馳走は海産物だと想像した。でも遅くなったのでお惣菜を買いに行ったのかもしれない。一体Sさんの買ってきたものは何だったのだろう。あれこれ考えたが浮かばなかった。Sさんに聞くのも恥ずかしい。
国語辞典で調べるしかないと思い、部首から調べた。それぞれ、どの部首に入るのか調べたが見つからない。
今度は一文字目が「ひん」と読むかもしれないと思い「ひん」の付く言葉を探してみた。「あった」。その二文字は「ひんしゅく」と読むのだった。よく見ると「かう」は漢字でなくひらがなである。食材を買ったのではない、もちろんお惣菜でもない。
「なあんだ、ひんしゅくをかう」と読めば意味は通じる。二文字の漢字が読めなかったために思い込みでいろいろなことを想像していた。頭の固さと漢字を知らない自分にあきれると同時に、辞書と首っ引きになっている姿におかしさがこみ上げてきた。
携帯に入っている変換文字をよく見るが知らない漢字も多く「顰蹙」も携帯で教えてもらった漢字の一つであった。
それにしてもSさんに「何を買ったの」と聞いていたら私も「顰蹙を買う」ことになっていただろう。