第 3304 号2012.05.20
「 故郷の無人駅 」
長坂 隆雄(船橋市)
肉親は既に亡く、訪れる機会もなかった故郷を10数年ぶりに訪れた。
過疎の田舎にあって、交通の唯一の拠点であったJRの駅舎も今では無人と化し、事務所も閉ざされて、侘しい姿を残していた。
乗車券をどうして購入するのか改札近辺を見ると、自動きっぷ券売機が設置され、最大運賃1300円までの駅への販売であった。
併し、機械といえども万能ではない、老人の多い過疎地の事であり、間違って購入する場合もあるだろう。機械の故障で切符の出て来ない場合もあるかもしれない。
見ると、販売機の頭上に『お知らせ』と書かれた表示板があり、万一の場合は注意書があった。
切符は販売機でお求め下さい。なお
(1)『取り消しボタン』を押しても返金されない。
(2)きっぷがでない。
(3)金額ボタンのおし間違い。 などの場合は、下記のところまでご連絡下さい。
と表示され、遙か10数キロ離れた鉄道局の電話番号が記載されていた。にも拘わらず周囲には電話はない。金額を入れても切符が出ない。併し、田舎の老人が携帯電話を携帯しているだろうか。
近くの民家で電話をしたとして、その間に列車は近づき、それを逃せば、又最低一時間は待たなくてはならない。
私は帰りの列車の車掌にその事をたずねた。彼は言った。『電話を受けたら、ご自宅まで代金をお送りする事になっていますのでご迷惑をおかけする事はありません』
私は一瞬開いた口がふさがらなかった。