第 3303 号2012.05.13
「 黄菖蒲 」
小林 鈴子(杉並区)
五月上旬―。
神田川の辺りに黄菖蒲が咲き始める。
流れに沿って咲く黄菖蒲の花は、爽やかな初夏の訪れを告げる風物詩で、私はこの時期、五分… 七分…としだいに川辺を鮮やかに染め上げてゆく黄色い花に見とれながら、プロムナードの散歩を楽しんでいる。
丁度この頃、すぐ近くの商店街に毎年飛来する渡り鳥の燕たちがやって来て、帯状に連なる黄菖蒲の上をスィー スィーッと軽やかに飛びまわる姿は、黄菖蒲と共に、初夏の訪れを告げる風物詩―。
可愛いらしい姿に心が和む。
この街に暮らして七十年―。
かつて田園の中を滔々と流れていた神田川も、今では高いコンクリートの壁の間を縫って流れる味気のない川に変わっている。
でも一九八五年の川床整備事業で植えられた黄菖蒲が、冷たいコンクリートの川床に潤いを与え、今や街中を東西に縫って流れる神田川の、約一キロに渡る川辺は黄菖蒲の名所。新聞にも載るほどで、今年もまた写真入りで紹介されていた。
五月晴れの下―。
煌めく川面に映える黄菖蒲は見事!
飛びまわる燕たちの姿も生き生きとしている。
五月下旬―。
いつしか花も疎ら… 雨に濡れた深緑の葉が川面に影を落としている。
いつの間にか、燕たちの姿も見えない。
私は咲き残る花に、ゆっくりと季節が移り過ぎてゆくのを感じた。