「 娘の結婚 」
ネリー(ペンネーム)
先日の母の日、3月に結婚した長女の新居に初めて食事に招かれました。
5年近くつきあった彼とようやくゴールインするべく、着々と準備をしていた娘のユミ。それなのに式の10日前に突然の大地震。その後も余震・計画停電・交通の乱れが続き、注文していたブーケも花店が断水して届かず、高層ビルの最上階でのレストラン披露宴も余儀なくキャンセルの事態となりました。
パーティーができないのなら式も延期しようかという話も出ましたが、新郎の「僕はユミと結婚できればそれだけでじゅうぶんです」と言ったひとことで、教会での挙式と、会堂での茶話会だけのささやかな式となりました。
小さい頃からお世話になっている牧師先生、教会の方々の応援を得て、父親が走り回って軽食の準備をし、妹たちが飾り付けをし、地味だけれど和やかで心温まる結婚式となりました。 それでも、式の一週間前、会社勤めをしながら、相次ぐ予定変更で準備に疲れ切っていた長女を何度も抱きしめたくなり、当日の朝教会で25年前に私が着た手作りのウエディングドレスを着た長女を見た瞬間、私は涙が止まりませんでした。
花嫁は泣きませんでした。最初から最後まで笑顔全開でした。生きて健康で愛する人と結婚できただけで本当に幸せだったのです。地方の招待客がみな来られなくなったにもかかわらず、父親と腕を組んで歩いたヴァージンロードは、彼女を支えた100人近い人々の大きな大きな拍手に包まれました。
式が終わったあと、新郎は「ユミは本当に愛されているんだと思いました」と言いました。華やかなブーケも豪華な食事もなかったけれど、それ以上に忘れ難い一日となりました。予定していた費用がかからなくなった分は被災地への義捐金になりました。
小さなアパートを借りて新生活を始めた二人は、今ままごとのように楽しく幸せそうです。
結婚前は台所に立ったこともなかった長女が母の日にふるまってくれた手料理のおいしかったこと。
「なにもない出発」に見えた結婚は、それどころか、かぎりなく豊な出発でした。今もまだ被災地のことを思いながら謙虚に自分たちの幸福に感謝している若い二人に、これからも親としてエールを贈り続けたいと思っています。