「 お菓子の家 」
グレーテルの母(ペンネーム)
ある夕食時「どうして私たちばかりに、しっかり食べなさいって言うの?」と娘。
「お母さん、実は『お菓子の家』の魔女なんだよ。子供達に美味しいものをたっぷりあげて、太らせた後、丸ごと食べようという寸法なんだ」と私。
「ええー、」「わー、ほんと?」昨夜、読み聞かせたグリム童話を思い出し、笑いあう姉弟。
「私たちがどれくらい大きくなったら食べるの?」
「そうだなあ、20キロ以上になると、お肉が硬くなって美味しくないからなあ」と私。
「わー、じゃあ、その前に私たち、逃げなきゃー」
「そうだね、うちには竈がないから逃げるしかないね」
食事そっちのけで童話の世界に入ってしまった姉弟の話を黙って聞く私。
「一日でいいから『お菓子の家』に住んでみたいなあ」
「いっぱいお菓子が食べられるもんねー」
「そうだ!これは魔女のご馳走なんだから、お菓子もあるはずだよ」
と、ちゃっかりデザートをオーダー。もう、本当に!母の本意がわからないんだから???
それから半年、小学校から走って帰ってきた娘の手には、開かれた健康記録帳。
「お母さん、20キロ超えちゃった。もう私は美味しくないから諦めて。食べるならター坊だよ!」と息を切らせながら嬉しそう。なんと弟を売り渡す!
「なに言ってんの。ター坊は太ってるから、とっくに「20キロいってるよ。
二人とも食べ時をのがしちゃった。残念、残念。」とおどけつつ、
「重たくなったねえ、もしかして本気にしていた?」私は、娘を抱き上げて笑いころげた。
我が家のグレーテルは食が細く、何かと心配させられた。今でも好き嫌いが多く、手を焼くが、それでもダイエットに精を出す年頃である。
「子供心に、お母さんに気づかれないうちに20キロ超えようと、念じていた頃が懐かしいわ」と日々、体重計と睨めっこ。なんとも皮肉な事態だが、傍観者としては、たいへん平和で、いと、おかし。