第 3274 号2011.10.23
「 チュンちゃんの話 」
ゆ う す げ(ペンネーム)
真っ青な空に色づき始めたモミジが映え、秋の陽光が暖かく降り注いでいる日だった。
ウォーキングの仲間達と久しぶりに集い、「この夏、よく生き延びたわねー」と、まるで戦時中のような挨拶を交し合った。それほど、去年の夏の猛暑はひどかった。
仲間の一人・Sさんとは、植物の知識や好きな花が似ているので、仲良しだ。歩きながら、彼女がこんな話をしてくれた。「夏の初めに、巣から落ちた雀の雛を見つけてね。ガーゼでくるんで育て始めたのよ。1時間毎に小鳥のえさを食べさせて、スポイトで水を飲ませたの」
「大変だったでしょう。夜も?」
「あの熱帯夜でしょ?ぐっすり眠れないから、ちょうど汗拭きがてら、夜も面倒看られたわ」
「えらいこと。それで、育ったの?」
「ぐんぐん元気になってね。すっかり私になついちゃったのよ。でも野生に戻さなくちゃならないでしょ。部屋で放して飛ぶ練習させて、、、。だから締めっぱなしの弱冷房で、暑かったわぁ」と笑った。その笑顔が阿弥陀様のように見えた。
「それじゃ、別れが辛かったでしょ?」
「ところがね。外に放しても、庭の木に止まっていてね。私が出て行くと、肩に止まりにくるの。チュンちゃんて名前付けて家の子みたいよ」。私は目が潤んでしまった。
チュンちゃんは、朝早く窓を突っついて挨拶をすると、庭で一日遊んで過ごすそうだ。
「夕方になると、どこかへ飛んで行くのよ。きっとねぐらがあるのね」
最近、カノジョを連れて来たそうだ。
「どうも男の子だったみたい」と言うSさんの言葉に、周りにいた仲間達も一緒に笑った。
その日のお天気のように、ぽかぽかと暖かい気持ちになった一日だった。