第 3273 号2011.10.16
「 秋の一日 」
もっちり 蒸しパン(ペンネーム)
箱根の仙石原に夫とドライブに行った。
ここ何年か日帰りでハイキングに友と来ている場所だ。
秋晴れの休日、無料になった海沿いの高速道路、案の定混雑していたが、キラキラ光る波の穏やかな海を見ていると渋滞も気にならない。
車内に流れる中島みゆきの曲を聴きながらいつの間にかウトウトしていたらしい。
そこは関西の母の実家だ。母を祖母は話をしながら縁側で洗濯物を畳んでいる。母は若く祖母は現在の私くらいの歳だろうか、随分歳をとって見える。祖父は自転車で猟犬を連れ、山に行って来ると言って出かけた。よちよち歩きの妹は、庭の筵に干してある小豆で遊んでいる。私の姿はないが、懐かしい景色と草木の匂いに囲まれ母の胎内にいるような心地よさに身を置いていた。
どの位の時間が経ったのだろう。
「着いたよ」夫の声で気がつくと辺りはススキの原っぱだ。風になびく穂が太陽に照らされ金色に光っている。雲に陰り真っ黒に見える山肌と、雲間から差し込む光に輝くススキは幻想的で大地の原風景を思わせる。
ついさっきまで夢の中にいた母や祖父母がそこにいるような錯覚に陥る。
父母の元で暮らした年月と夫と共に歩んだ時間が同じになったが、私の原点は父母にある。
大過なく過ごした人生は幸せの部類だろう。若い頃のように、他人を羨む気持ちや競争心も薄らぎ、今は穏やかな日々が過ぎていく。これが歳を重ねると言うことなのか。
「ススキはきれいだけど寂しいね」夫の感想だ。「そうね。でも又来ましょうね」懐かしい人達に会える気がするから。