「 きんもくせいの香る頃 」
古所 原(ペンネーム)
ようやく過ごしやすい季節になり近所を散歩すると、どこからともなくあの甘い香りが鼻を刺激してくる。きんもくせいの香りだ。最近の気候変動の激しさに不安を覚えつつも、「ああ…この香り」と無事に秋が訪れたことを安堵し、嬉しく思う。
秋といえば着物。着物といえば古布。私は大正、昭和初期の着物に初めて出会ってからそのデザイン・色彩・手触りなどに触れ、すっかり虜になってしまった。先日、久しぶりに骨董フェアに出かけた。平日にもかかわらずビッグスターのライブでもあるかのように、会場の入り口には大勢の行列ができていた。「んー遅かったか…」行列に並びながら何故か焦る我が心。
会場へ入ると、ぎっしりと魅力的な店が並んでいる。古い着物を扱っている店へ直行すると60~70歳代の女性が7~8人固まって反物や洗い張りをした着物に群がっている。僅かに見える色と柄で好みの物を取ろうとするが彼女達に完全にブロックされ届かない。手に取ることができない。そうこうしているうちに2つ3つと棚から商品が消えてゆく。(ああ…)
反対側に目をやると〔どれでも1000円〕と書かれたコーナーに着物や襦袢が置かれている。「わあ~綺麗!」「千円なのに悩んでしまうわ~」興奮する女性達の声が飛び交う。「ねえ、これとこれ。どっちがいいと思います?」突然話しかけられる。「絶対こっちですよ」と私が指差して言った途端、周囲からも一斉に私の指示した着物を指差した。「あははは!」見知らぬ一同が思わず顔を見合わせて大爆笑!
お気に入りの一枚を手にして会場を出る。ふと見上げると、真っ青な空がどこまでも広がっていた。丁度、それは手に入れた着物の美しい青い暈しの色によく似ていた。(今度は私が蘇らせましょうぞ!)さあて何にリメイクしようか…歩き出すと秋風が心地よく頬をくすぐった。