第 3268 号2011.09.11
「 幻想のキルトの世界 」
R N(ペンネーム)
布と針と糸の祭典、東京国際キルト・フェスティバルが東京ドームで開かれている。毎年キルトの仲間と出掛けている。今年はいつ行こうかしら、まだ日程が決まらない。次男が三才になった時、始めたキルト。子供の成長と共にキルトのテーマを考え作ってきた。最初はトラディショナルで布の張り合わせで色合いが変化していくバランス重視だった。私はシックな色調が好みなので、選ぶ布も原色は少なかった。ぼんやりしてのんびりしたグレーやアイヴォリーの布が基調で、配置を決め縫い合わせていく。
出来上がりは抽象的な世界だった。送る相手は先ずは家族。ランチョンマット、コースター、ベッドカバー・・・。作品対象は何でも良い。子供が言った。「母さんはパッチワークしている時は、魂を縫いこんでいるみたい」。
ギリシアに旅行した時だった。紺碧の海の色と、白壁・オレンジ色の屋根の家並みの街をクルーズで見た時、世界観が変わった。原色の美しさの魅力に捉われた。キルトはこれで行こうと思った。ならば作品は額絵だ。想いは原色が作る世界を駆け巡った。布屋さんで選ぶ布も原色の配分が増えた。例えば、夕方の海に没する太陽をテーマにしたらとか、密教の曼茶羅図をテーマにしたらとか、想像は時間を忘れさせ、また布を縫い合わせる時も出来上がりを想像しながら縫うので時を忘れ、私は幻想の世界で時を過ごしているように感じた。
私は個展を願わない。また、キルト・フェスティバルに応募もしない。キルトタイムの時の忘却が楽しみだ。そして、勿論出来上がった時の満足感は何物にも代え難い。キルトの作品の歴史は私の人生の半分に近づく。「魂を縫いこむ」と表現した子供達も独立した。私は今後もキルトのこの幻想の世界に入り込み布を縫う人生を送り続けていくことだろう。