第 3265 号2011.08.21
「 行く夏を誰が惜しもうか 」
そらい(ペンネーム)
行く春に涙を注ぐも、誰が夏を惜しもうか。
大学で与えられた課題文献にそのようなことが書かれていた。
悲しいかな、日本の夏は高温多湿。北国ならば短い夏を惜しむ心も生まれようが、生憎ここは東京。夏の終わりを悲しむのは宿題を終わらせぬまま八月の終わりを迎えた小学生ぐらいなものだ。
ようやくさまになってきた一人暮らし。いってきますと心の中で呟いて、ドアに鍵をかける。お財布事情の厳しい下宿生の知恵として、休みの間は図書館で日中を過ごしている。外で出るとまとわりつくような熱気をあびた。真上に上りかかった太陽を遮る方法はいくらでもあるのだが、この湿気と暑さはどうしようない。暦では秋になったとはいえ、心頭滅却の心得のない若輩者の自分にはこの暑さは耐えがたいものである。
「……バスに乗ろう」
こうして、下宿から一分もかからないバス停で立ち止まり、後数分で来るというバスを待つ。本末転倒、という言葉が脳裏を横切るが、知ったこっちゃない。
そんな「残暑」という言葉が似つかわしい、ある日のこと。