第 3259 号2011.07.10
「 無題 」
竹村啓伸(渋谷区)
「かぜとなりたや
はつなつの かぜとなりたや
かのひとの まえにはだかり
かのひとの うしろよりふく
はつなつの はつなつの
かぜになりたや」
たしかこんな詩であっただろうか。
幼い頃に育った家の祖母の居間にかけられていた
川上澄生氏の版画に添えられた詩である。
その詩は当時まだ7才であった私にも理解できるやさしい文章
でありながら、奥に秘められた情熱をなんとはなしに感じさせ
られて、それから7年間、祖母の部屋を訪れるたびに、何故か
しら気になって、しまいには風に吹かれていく貴婦人の絵が描
かれたその版画ごと、目に焼き付けられてしまった。
あれから20年以上のときが経つが、充分に大人といえる年齢に
なった今でも、初夏の風が吹く季節になると、毎年決まってこ
の詩を思い出す。