第 3250 号2011.05.08
「 兄のカタブラ 」
喜多野 眞理(匿名)
夏の暑い夜も冬の寒い夜も
肌身離さず握り締められていた
兄のブランケットが40年近く前から我が家にある。
捨てようとするとかならず兄がぐずって大騒ぎとなったので
何度か母の手縫いでリフォームされて
大人の大きさから今はバスタオルぐらいの大きさになってしまった。我が家ではそれを兄のカタブラと呼んでいた。
しばらくして、主から忘れ去られたカタブラは、
今度は母が捨てようとしなくなり、
きれいにたたまれて大切に箱にしまわれることとなった。
青と白のシマシマ模様のタオル地で肌触りがとても優い。
しかし、兄が咥えていたであろう跡やよれがそのままに残っている。
若い両親はどのような気持ちでカタブラを兄に買い与えたのだろう。両親がそれに包まれて寝入る兄をみて何度も目を細めたことだろう。そう思うと母がとても恋しい。
よしよしと頭をなでて欲しい。
ぎゅっと抱きしめて欲しい。
兄も私もまだまだ母の小さな子供である。
残されたカタブラを兄に見せたら
兄が大泣きしてしまうと思うので、
兄に渡すのはもう少し後にしようと思っている。