第 3233 号2011.01.09
「 卒寿の伯母 」
上原 多紀子(千葉県浦安市)
「元気?」
久しぶりに伯母に電話する。
「元気よ。福祉センターに行って来たの。お年寄りが集まっていろいろするのよ。楽しくて、週一回を二回にしてもらったの」
弾んだ声が聞える。今年卒寿だが、声だけ聞いているととても九十とは思えない。六十代のようだ。
「そう」
「俳句を作るんだけど、いつも張り出されるの」
「すごいじゃない」
「計算も一番早くできちゃうの。全部合っているの。周りの人がびっくりしてるの」
「沢山いるの?」
「ええ、お友達もいっぱいできたわ。私は口が悪いからって言うと、そんなことないって」
伯母は、竹を割ったような気性。思ったことは何でもズバズバ言う。そんな伯母が周りから好印象を持たれたようだ。
戦争未亡人で、幼子を抱えあの混乱した時代を生き抜いてきた。
家業の植木屋を女手一つで切り盛りした。首に巾着袋と手ぬぐいを下げ、職人たちを指図していた伯母。黒いゴツゴツした手で算盤を弾いていた姿も浮かんでくる。思い出されるのは、どれも働いている姿ばかりだ。今は、娘夫婦と同居している。孫やひ孫に囲まれ、悠々自適だ。
「聞いていると、今の若い人はよく遊ぶよね。なんで、私は、あんなにガムシャラに働いていたんだろう。まあ、それがあって今こうしてのんびりできるんだけど」
「今、何してたの?」
「袋、縫っていたのよ。皆にあげようと思って。だから忙しいの」
じっとしていられない性分だ。それが伯母にはよく似合っている。