第 3228 号2010.12.05
「 日記 」
出 海 佳 世(高松市)
ある日、古本屋で一冊の本に目がとまった。布張りの「主婦日記」と題されたそれは、本ではなく本当の日記帳で、偶然にも私が生まれた年のものだった。自分自身が主婦をいうことも手伝ってか、私は妙に愛着を覚えた。と同時に、持ち主だった女性の過ごした日々にも興味がわき、この日記帳を買うことにした。
日記は、万年筆の美しい文字で綴られていて、元旦に、家族で近くの海岸へ行き、「カラー写真を撮る」ところから始まった。
1月2日(晴れ時々くもり)
運動不足になるから駅前を一周して歩いた。元町で
ケーキを買い求める。洋一たこあげに興じ、私たち
はこたつでお昼寝。
2月1日(晴れ)
節子ちゃん来る。スカートの裁断をして帰る。
・・・・・
それはメモ書きのように淡々と綴られただけの日記だったが、不思議なほどその日その日の風景が浮かんできた。会ったこともないこの女性が、その中で会話をしたり動いたりしている。なぜだかじんわりと胸が熱くなった。おだやかな映画でも見ているような、冬の向日のような心地よさだった。
それなのに日記は、2月のある日を最後に、突然終わっていた。
理由はもちろんわからない。けれども、その空白のページも一日一日刻まれ続け、年の瀬も迫った12月、私が生まれたのだ。
私の日々は今日もまた、確実に刻まれてゆく。