「 柚子のめぐみ 」
あ く び 猫(匿名)
柚子の風味はもともとあまり好きではなかった。
だから、庭隅に植えた柚子の木が円らな実をつけるようになってからは、人様に差し上げることが多く、かんじんの我が家では、長いこと、夫が晩酌の焼酎にしぼりいれたり、お風呂に浮かべたりするくらいしか出番がなかった。
これが、当たり年というのか、今年は、数え切れないほどたわわに実をつけた。例年のごとく、ご近所に差し上げ、また出かけるたびにバッグの中へ入れていき、配りにくばってはみたものの、年があけ、柚子の木を見上げてみるとまだまだ黄の輝きが風にゆれている。はて、どうしたものか。
そこで、一念発起して、自ら柚子のレシピに挑戦してみることにした。
第一日目は、<柚子味噌>作り。まずは皮をせっせとすりおろす。とにかくこの味噌は大量にできたので、風呂吹き大根以外にもなにかないかと知恵を絞った結果、田作り、白身魚の田楽焼き、シメジのグラタンの隠し味などに使ってみたら、アクセントになってなかなかイケル。味噌カツの隠し味としても、甘さと酸味がぼどよく家族に大好評であった。
皮を使ってあまった果肉は、<はちみつ漬け>と<砂糖漬け>に。隣の奥様によると、こうしておけば砂糖がしみて、やわらかくなり、お茶請けとしてもそのままいただけるとのこと。お湯でわれば、柚子茶も楽しめるし、柚子寒天など娘のお気に入りとなった。
そして二日目は、大分旅行で出合ったなつかしい味を再現させるべく、ネットを参考に、<柚子胡椒>作りに挑戦。手の指先をひりひりさせながらの青唐辛子のみじん切りは難行ではあったが、できあがりを楽しみにがんばってみる。すりおろした柚子皮と塩とあわせ、できあがったものは、小分けにして冷凍に。これがまたおでんにかけてよし、パスタに入れてよし。う~ん、プロの味、最高だぁ!
やっぱり、お料理というのは、たのしいものだ。今までは、何かと忙しく、心の余裕がなかったからやらなかっただけ。我が家に実ったものであれば、無農薬で、しかも香り高い。こんなに急に料理のレパートリーが増えて、私もまんざら捨てたもんじゃない!と、自画自賛の日々。そうこうしているうちに、柚子地獄などと罰あたりなことをいっていたのが、柚子天国に思えてきた。
今日、最後の収穫をと見上げた空に、ほんのちょっぴり春の気配が漂っていた。小さな二つは木に残し、小鳥たちに食べてもらうとしようか。