第 3226 号2010.11.21
「 お洒落なふたり 」
匿名
私の八十七歳の祖父と九十歳の祖母は、とてもお洒落だ。いつ遊びに行っても、身支度をきちんと整え、白髪に生える綺麗な色を好んで身に付けている。木枯らしの吹く季節になると、祖母はチャコールグレイのセーターに山吹色のスリムパンツ、祖父は藤色のカーディガンにチェックのシャツを着ている。二人がお茶を飲んだり、読書をしている様はまるで一枚の絵画のようだ。特別贅沢な衣類でもないのだが、色合わせや素材の取り合わせが、なんともしっくりと目に心地よい。家から滅多に出ることもなく、静かな暮らしぶりなのに、どうしてこんなにお洒落なのだろう、と私はいつも不思議に思う。
一度だけ、祖父に聞いてみたことがある。
「どうして、おじいちゃんはそんなにお洒落なの」
祖父は少し考えてから、こう答えた。
「お洒落しているつもりはないよ。ただ、身だしなみだけはちゃんとしたい、と思ってるんだ。身だしなみとは、自分のためじゃなく、周りの人のためにするものだからね」
私ははっとする思いだった。そうした気持ちで、服を選んだり、手入れをしたことが一度でもあっただろうか。裾のほつれてきたスカートがとても恥ずかしく、思わずうつむいてしまった。
それからしばらくして、祖父母の新婚時代の写真を見せてもらった。若い祖父と祖母は、ちょっと人目を引く美男美女だった。髪をオールバックになでつけ、外国製のコートを着た若い祖父は俳優のようだった。二人は、お洒落をして銀座でデートをするのがとても好きだったらしい。
今はもう、そろって外を出歩くことはもうないが、とても仲が良い。
祖父母のようなお洒落を、いつか私も誰かのためにできるようになるだろうか。