第 3224 号2010.11.07
「 一条の光 」
小 僧 太 郎(匿名)
臨月の妻がソファでうたたねをしている。
日差しよけに締め切ったカーテンの隙間から一条の光が差し、まあるく膨らんだおなかに当たっていた。
妻は、口元にかすかな笑みを浮かべ、大事そうに両手でおなかを抱えて軽い寝息を立てている・・・。
ただ、それだけの光景なのに、なんだか神々しいような、そしてこの上ない幸福の象徴のような・・・そんな不思議な気持ちになって不覚にもツンとこみ上げるものがあった。
いや、なんの不思議もないのかもしれない。
結婚10年目。つらい不妊治療を乗り越えての奇跡に近い妊娠・・・ふたりの子供が育っているおなかは、私たちふたりにとって何よりも尊いものに違いないのだ。
妻を起こさないよう、そっとおなかに手を置いてみる。
僕の手の甲にも、差し込む光が当たる。まるで祝福のように・・・。
妻が目を覚まして不思議そうにこちらを見る。
なんといっていいのか分からず、「風邪を引くよ」と声をかけた。
休日の昼下がり。出産・育児という幸せな闘いが始まる前の、つかの間の休息の一場面・・・。