第 3223 号2010.10.31
「 ポン・ヌフする? 」
林 五和夫(兵庫県)
パリを流れるセーヌ河のシテ島の西端をかすめるように、重厚壮麗な石の橋が架かっている。その橋の名はポン・ヌフ。フランス語でポンは橋、ヌフは新しいという意味で、日本語に訳すと「新しい橋」である。しかし、架橋後四〇〇年の今では、名に反してパリでは最古の橋となっている。アンリ四世の時代、一六〇七年に三〇年かけて完成した。(巾二二メートル、長さ二三八メートル)。 日本では徳川家康が幕府を開き、お江戸日本橋が木造で架かった頃である。 それまでのヨーロッパの橋は、木造で、橋上に家や店が建ち、屋根があったりした。 ポン・ヌフは初めての石造で、建物などが無いかわりに、歩道が設けられたり、誰もが利用できる半円形の憩いの小広場(バルコニー)が多数創られるなど、全く新しいタイプということでこの名が付けられた。完成後、従来は繁くなり、市が立ったり、大道芸人が集まったり、またたく間に市民の通行、憩いの場となった。その後、次々とパリの木橋は架け替えられ、ポン・ヌフは最年長の橋となり、当時のままの姿で現代の交通事情に対応している。 フランス革命を生き延び、第二次世界大戦の爆撃を逃れたこの橋は、そのものが歴史的建造物であって、文化と美の都パリには無くてはならない象徴であり、セーヌ河周辺一帯がまとめて世界文化遺産に指定されている。 橋を主役にした映画「ポン・ヌフの恋人」は日本でもヒットした。 今、パリの人々の間では「ポン・ヌフする」という言葉が使われているそうだ。年令を重ねても、元気で若々しく、おしゃれでセンス良く人生を楽しむことを言うらしい。 古くて新しいこの橋にあやかって、私たちも「ポン・ヌフする?」、いかがでしょうか。