「 無題 」
匿名
この秋、栃木県に嫁いで、8年目を迎えました。
嫁という立場に戸惑いながら、家族の一員になろうと必死の数年間。姑から料理を習い、掃除や言葉遣いを教わりながら、たくさん叱られた日々。いつも優しい舅の笑顔。ようやく主人との距離感をつかめた、この頃。
先日、主人の仕事の手伝いで東京・青山の辺りを車で通り抜ける途中、気になる洋館を見つけました。
「いつか、さっきの通りの洋館の様なカフェでお茶を飲んでみたいな」
夕暮れの景色を見ながら、主人に話しかけました。
「どこ?戻って行こう!」
今すぐじゃなくて良いのに、車をキュンとUターン。嬉しいことに、駐車場も完備。
ここは、お菓子屋さん?それに、奥にはカフェもありました!
「やりたいことは、ちゃんと言って欲しい。小さな夢も大きな夢も一緒に叶えていこう」
主人の言葉に甘えて、早速、メニューにある「スフレ」と「ロイヤルミルクティー」を注文。飲み物は何度でもお代わり自由。何と言うことでしょう。私の小さな幸せの夢が一度にいくつも実現してしまいました。
実家の両親の声を聴くだけで涙が出るから、電話もできなかった時代。姑のことを考え悔しくて、歯ぎしりして眠った夜。主人に怒られて、一人泣いていたこともしばしば。そんな、しょっぱい涙も、いつしか思い出に変化していました。
目の前には、優しく膨らんだスフレ。白衣の女性がうやうやしく銀のケースから取り出して、食べ方を教えて下さいました。
そっと、てっぺんを崩すと、甘い湯気がふわり。クリームがシュワシュワとろけるのをスプーンですくって、
ぱくり・・・。
今、この瞬間、心のトゲトゲも、恨み辛みも、全部忘れて、ぽいっと捨てましょう。熱々のスフレに、心もぬくぬく。下野(しもつけ)の寒い冬が来たってもう大丈夫です。
これからも、この人と仲良く楽しく、明るい家族を築いていきます。本日、スフレ記念日。
今度は、姑と一緒にスフレを食べに参りましょうか。