第 3217 号2010.09.19
「 See You Again 」
葉月(匿名)
シルバーウィークのとある日、およそ30年ぶりの高校の同窓会に出席した。受付で胸に名前を書いたシールを貼るようにとの指示。せっかくのお洒落が台無しと思ったが、その計らいの細やかさにすぐに気がつく。女子はともかく、男子は名札を見ても、あまりの風貌の変化に一瞬どころか数分たっても当時の面影を探すのに一苦労。
乾杯の後は歓談タイムで、体育祭の応援合戦や部活動で汗を流したことなど思い出話に花が咲く。ふと見ると、一人の男子の姿が目に入った。彼のことはすぐに分かった。顔が変わってなかったからでなく、右腕がないからだ。
大学時代、彼はそれをバイク事故で失った。当時彼のため皆でカンパをした。その後左手で書いたと思われるたどたどしい文字でお礼のハガキが届いた。当時私は大学生。恋とバイトに明け暮れ、そのハガキを見ても大きな感慨に浸ることなく返事も書かなかった。だが、その後の人生の困難に遭うたび、ふと彼のことを思い出すようになった。20歳そこそこで右腕を失う喪失感。そしてその困難を乗り越えた精神の強靭さはいかばかりだったろう。そしてなぜ返事を出さなかったのか、時折心が疼くようになった。
話しかけると、彼も私のことを覚えていてくれ、結婚し子供もいて今は充実した日々という。何より昔より男前になり、逞しさと優しさを感じさせる男性となっていた。帰り際、実は高校時代好きだったと冗談まじりに告白?されるおまけまでついて、その日私は晴れ晴れとした気分で会場を後にした。英語好きだった私たちは、‘See you again’と左手で握手をして。