第 3202 号2010.06.06
「 飛行機の雨漏り 」
N.yasui(ペンネーム)
出発予定時刻はとっくに過ぎたのに、飛行機は未だ動き出す気配が無い。
私はボンヤリ窓の外を眺めていた。
給油のために立ち寄った、スリランカはコロンボ空港でのことだ。
空港のはずれはヤシの木の林が続いている。
そのヤシの林の上空が真っ暗になった。
と見る間に空港全体も真っ暗になり、同時に土砂降りの物凄い雨になった。
「これがスコールというやつだな」と思って見ていると、「故障が直ったのでこれから出発する」との機内アナウンスがあり、エンジン音がして機は少しずつ動き出した。
「えーっ、こんな雨の中出発するのだろうか」と心配しているとき、なんと頭の上の荷物入れの辺りから、ポタリポタリと水滴が落ちてきた。
私の隣りの席の人も不思議そうな顔をしてその水滴を見ている。
丁度シートベルトの着用確認のために通路を歩いてきた女性の客室乗務員がその気配を察し、雑巾のような物を持ってきて濡れたところをさっと拭き、「OK」とか言いながらウインクして向こうに行ってしまった。
さっきの機内アナウンスの中の「故障」と言う言葉が妙に気になっていたところでもあり、なんだかとても不安になった。
しかしその間にも飛行機はゆっくりと進み、滑走路の端で離陸態勢に入った頃にはスコールはもう小降りになり、水滴も落ちてこなくなっていた。
そして機は何事も無く離陸した。
厚く垂れ込めた雲を抜けると、真っ青な空が一面に広がり、太陽の光がギラギラと眩しく、不安な気持ちが急速に去って行くのが分かった。
「さっきの水滴は、やっぱり雨漏りだったのだろうか」私は不思議でならなかった。