第 3201 号2010.05.30
「 母への旅路 」
さくらんぼ(匿名)
自分の中に新しい命が芽生えたと知った時、
喜びと同時に不思議な感じがした。
実感が全く湧かなかったのだ。
あれから10ヶ月。
おなかの中でスクスクと育って、日に日に存在感を増す命。
臨月を迎えた今、そっとおなかに手をあててみると
そこには確かな生命を感じることができる。
この不安定な世の中、
私はしっかりした母親になれるだろうか?
ちゃんと教育できるだろうか?
何もできない赤ちゃんを一人前の大人に成長させることができるか?
たくさんの情報が氾濫する世の中にいるからこそ、
子育てに対する不安でいっぱいだ。
でも、ふと気付いた。
私はまだ母親にはなっていないけれど、
この10ヶ月で随分と強くなり、成長した気がする。
つわりで何も食べれなかった時、
風邪をひいても薬が飲めずにひらすら耐えるしかなかった時、それでも頑張れたのはおなかの中に赤ちゃんがいたから。
いつでも一緒に頑張ってきたのだ。
私は洋裁が大の苦手で、布を見るのも嫌いだった。
そんな私が今、生まれてくる赤ちゃんの為に
楽しみながらベビー服を作っている。
これからだってきっと同じ。
私は赤ちゃんと一緒に成長し、
そして母親になっていくのだろう。
ふと温かい気持ちになり、「元気に生まれてきてね」と
そっとおなかに話かけるとぴくっとおなかが動いた。
「ママはあなたと一緒に成長して、あなたを絶対幸せにするよ」と心の中でつぶやいた。
そう、母への旅路は赤ちゃんが生まれて来る前から
もう始まっていて、私は既におなかの中の赤ちゃんに
成長させてもらっていたと初めて気付いた。