第 3192 号2010.03.28
「 写真館で撮った家族写真 」
長 坂 隆 雄(千葉県船橋市)
仙台に住む息子から孫の幼稚園の入園式に参列して欲しいとの依頼があった。妻はいそいそと出掛ける準備を始めた。私は今一つ乗り気にならなかった。併し、妻は、長男からのせっかくの勧めでもあるからと、渋る私を強引にせきたてた。退職後、妻への発言力を失った私は、抵抗する術もなく、しぶしぶ重い腰をあげ車中の人となった。
日頃の老夫婦だけの沈滞した生活と違って、新しい人生の第一歩を踏み出す幼児の入園式は躍動感にあふれていた。参列の若々しい両親も眩しく輝いて見えた。たかが入園式と、参列を俊順していた思いも忘れ、私も一挙に若返った様な興奮と感激を覚えた。
入園式を終え、一家全員で写真を撮ると息子が言った。わざわざ高い代金を支払って写真館での撮影でもあるまいのにと内心では思ったが息子の意向に従った。写真館の主人から、あれこれと指示されながら、私達老夫婦の膝にぴょこんと飛び乗った孫を中心に、ようやく撮影も終った。
できあがった写真館の写真をみると、素人の写真では及ばない強い家族の絆が感じられた。そこには、離れて住む私達両親との心の交流を願い、せめて年に一度位は親子三世代が顔を合わせ、写真館で撮影して無事を喜びたいのとの、口には出さないが息子夫婦の優しい心情が感じられ胸が熱くなった。
以来、新学年の都度、三世代で写真館で撮影する事が慣例となった。当初幼稚園児であった長女も今では高校生となり、長男も中学生となった。年毎に加わる写真の数々を繰り返し眺めながら、離れて住む孫たちの成長の感慨と、家族全員の健康の喜びに浸っている。
核家族化の風潮の中にあって、家族の絆を支え、強めてくれる大きな縁としての貴重な役割を果たしてくれる写真館での貴重な写真である。