第 3183 号2010.01.24
「 お弁当とバターボール 」
バターボール(ペンネーム)
母が私の学生時代に持たせてくれたお弁当は、手の込んだおかずが彩り良く並び、いつも友人達から羨ましがられたものだった。お昼休みになると、親しい仲間が机を寄せ合い小さな島を作って、めいめいのお弁当を広げる。目にも美味しいお弁当を開くのは、いつもいつも楽しみだった。今のように手軽な冷凍食品などなかった頃で、栄養のバランスを考えて多くの品数を手作りするのは、さぞ大変な手間だったろうと思う。しかし母は、それを楽しんでいたと思う。
あるとき、いつものようにお弁当袋から取り出そうとすると、お弁当箱を包んだナフキンの上に、私の好きなバターボールがいくつか載っていた。お弁当にキャンディ?学校にお菓子を持って来ることなどなく、母の茶目っ気がおかしくもあったが、「〇〇子のお母さんは気が利くねぇ。」と、友人にも好評で、以後、コーヒーキャンディ、イチゴミルクキャンディ、と、様々なデザート?がお弁当の友となった。お弁当のあとに口に転がすキャンディは、ほんわかと幸せの味がした。
大学受験のときも、「お弁当にはバターボールを入れてね!」と念を押した私。当日は、個々の机で黙々と食べる緊張の空間の中で、その日のために作ってくれた好物も、全部はのどを通らなかったように思う。周りに合せてそそくさと包みをしまい、バターボールをそっと口に含む。ほわっと甘い香りに緊張が解けていく。水筒の温かい紅茶を飲んで、またひとつ。だんだんと力が湧いてくるようだ。
お弁当とバターボールのお陰か、希望の大学に入学叶った私は今、二人の息子のお弁当作り時代を終えてみて、改めて、母の濃やかな愛情に頭が下がるのである。