第 3182 号2010.01.17
「 あの音にもう一度会いたい 」
込 山 まさ子(山梨県甲府市)
昭和十四年、私は主人の任地である北満の黒河へ三日間、列車を乗り継いで行きました。黒河はハルピンより列車でまだ四時間も奥地で北の国境の街です。黒龍江の対岸はロシアの「グラゴエチュンスク」という街で河岸のトーチカの間を兵隊が警備をしているのが見えました。
再会を喜びあったのも束の間、ノモンハン事件が起き、主人は前線へ出勤し又、子供と取り残されました。黒河は満鉄の北の終着駅で列車の頭に大きな鐘をつるし「カランカラン」と冷たい空気をふるわせて鳴り響き、出入りしていました。その音を聞く度に「ホームシック」などと生やさしいものではなく、望郷の想いは胸につきさす様で泣けて困りました。
あれから六、七十年。今も列車はあの果てしない広野を鐘を鳴らしながら走っているのでしょうか。せつなくも、なつかしいあの鐘の音にもう一度会いたい。