第 3181 号2010.01.10
「 始めることは生きること 」
高 田 ゆ き(ペンネーム)
ある朝、新聞の折り込み広告に目がとまった。「初めてのバレエ 毎週木曜日 午後7時~8時」とあった。それまで行っていたヨガ教室が閉鎖になり、新しい教室を探していたのだが、勤めの後、なかなか通える所がなかった。「バレエ!?うーん、懐かしい」。私は子どものころ3年ほどバレエを習っていた。
ためしに見学に出かけた。30歳くらいの先生はとにかく細い!
典型的なバレリーナ体型である。指導法は筋肉の使い方や呼吸法などで、昔とまるで違って、たいそう理論的だ。受講生を見渡すと高校生から50歳代ぐらいまで。本当に初めての人もいたが、半分以上は経験者のようである。まちがいないのは私が最高年齢であること。「どんな格好でもいいですよ」という先生の声に励まされて習うことにした。
しかし、練習3回目にはレオタードと巻きスカート、黒いバレエシューズ、ピンクタイツを買っていた。家族には内緒である。
「ヨガに行ってくるね」と言って出かけてくるのである。妻に内緒でダンスを習い始めた「シャルウイダンス」の主人公の心境である。なぜか、あたりを見渡して教室の玄関を入る。さすが、高校生やOLの受講生たちは現代っ子だ。足が長い。鏡に映った私の姿は下腹が出て、足が短い。でも、私の頭の中には先頃亡くなった俵萌子さんの声が響いてくる。
「始めることは生きること」。
歳を重ねると好奇心を失ったり、自己規制をしてしまいがちだ。でも何かを始めることは本当に楽しい。一種の「解放」かもしれない。先日、「シャッセ」という飛ぶようなステップを教えてもらった。そうか、これが「シャッセ」だったのか。覚えがある。
飛んでみたら12歳の時のリズミカルな感覚がよみがえった。体重25㎏で飛んだ「シャッセ」を今、60歳が体重52㎏で飛ぶ。