第 3176 号2009.12.06
「 《母との日々》 」
山 内 み つ 子(川越市)
「ちゃあちゃんの歳、ボクの七倍以上なんだ!そんなに長くよく生きてきたねー」九九を習いたての息子が、彼の祖母、つまり私の母に投げかけた、十数年前の言葉を不意に思い出した。
「そう言われてみればそうやねー。まさかこんな歳になるまで元気でいられるとは…、戦争で死んでしまうかもしれんと思ってたのにねー」確か母は、そんな風にしみじみとこたえていたような気がする。といっても、その当時の母は六十代半ば、いまから考えると老境というには少し若すぎる。
その母が、あっけなく逝ってもうすぐ百か日。最晩年は、帰郷するたびにひと回りずつ小さくなっていくようで、先のことを思うと漠然とだが不安もあった。
「またおいで」
「また来るね」
上京して以来、母との間でこのお定まりの別れの挨拶を、何百回、いや何千回(?)交わしたことか。
街中で、デパートで、電車の中で…、老いた母親と中年の娘とおぼしき二人連れを見かけるたびに、心の奥で立ちすくむ。そうして、もう戻ってはこない母との日々を追いかける。
「おかあさんと何を話してたのかねー、思い出そうとしても、おんなじことしか浮かんでこなくてかなしくなる」妹が、電話の向こうでそう言った。
あたり前のように生きて喋って過ぎていった母との日々。なくなってしまって、そのあたり前がどれほどかけがえのないものだったかを、今更のようにかみしめている。
願わくばもういちど会いたいよ!おかあさん。あなたの不在は痛すぎる。