第 3155 号2009.07.12
「 夏の土曜の散歩 」
中村 友美(大田区)
土曜の朝、ふと思い立ち新宿御苑に行ってみた。
お盆の週末と午後からの雨の予報が重なったゆえか、
ほとんど人の姿を見かけない。ちょっと蒸し暑かったけれど、
ゆったりとした空気が流れる苑内をふらふら歩き回る。
今の季節、草木の緑に陰影が濃く、よく観察すると
色のバリエーションが豊かで見ごたえ十分。
ここいいな、と感じる場所や風景に出くわすと
立ち止まり、体全体であたりの雰囲気をじっくり味わう。
自分がその風景の一部になったような気になり、
都会の真ん中にいることを一瞬忘れてしまう。
葉がこんもり茂った夏のプラタナス並木では、木々の吐息
が聞こえてきそう。枯葉がカサコソ物悲しい晩秋とは違った、
生気あふれる情趣。
睡蓮の葉にびっしりおおわれた池のあたりは、空気が
止まったごとくの沈黙の世界。
睡蓮の花がところどころに白くボーッと光って見える。
道を少しそれると、そこは高い木立のうっそうと暗い場所。
ヨーロッパの森に迷い込んだみたいな気分になり、
向こうの木の後ろから黒いとんがり帽子の魔女が現われても
おかしくない感じ。
日本庭園に出てみると、視界が開け、ゆるやかな芝生の
丘には黄緑色の新芽をつけた松が立ち並んでいる。
松の木の間を、カメラを手にした初老の男性がゆっくり
ゆっくり進んで行く。一種幽玄な空気が流れる。
歩き疲れての帰り道、不思議にも、「さて、もうちょっと
いろいろがんばってみようか」と思わせるような、
新たな生きるエネルギーが湧いてくるのを感じた。
時を選べば都会の公園の散歩も捨てたものではない。