「 再会は天国で─ 」
田口 正男(渋谷区)
昨年暮れのこと。喪中のハガキと一緒に届いた旧友Nからの手紙に、ボクは肝をつぶした。ハガキはNの他界を伝える奥さんからで、手紙は故人となったはずのNが差出人だったからである。
しかも封書の筆跡もすべてまぎれもない、見慣れた彼のものである。
早速電話で奥さんに聞いてみた。「オレが死んだら投函してくれ」、主人がそう言い残して逝った、ということだった。
もう半世紀以上も経つ。大学を出て一流商社の新入社員となった、同期の桜がNだった。同じ営業部に配属された二人はペアで、毎日のように足を棒にして新規開拓業務に励んでいた。ある日、我々が頻繁に通い続けて漸くまとめた初仕事の商談を、「新米にはまだ無理だ」と、上司に取り上げられた。憤慨したボクたちは真っ赤になって、その理不尽なやり方に抗議した。が、一向に取り合おうとしない上司に堪忍袋の緒が切れ、ボクとNは即日辞表をたたき付けてしまった。
若気の至りで浪人する破目となった二人は、その後別々の道を進んだ。けれども賀状の交換や折々の文通などで、互いの消息は絶やすことはなかった。若い時分から寡黙で淋しがりやのNは筆まめで、手紙は饒舌だった。
マーちゃん(ボクの愛称)、元気かね。
これは君へ、最後の手紙となるだろう。
新米社員のあの頃は、お互いに若かったな。パチンコ、麻雀も、それにハシゴ酒。みんな君の直伝だったね。お陰でとても楽しかった。懐かしい想い出を色々ありがとう。
でも君の尻馬に乗って、折角の新社員の道を棒に振った、あの時は参ったよ。一時は君が恨めしくて、悔やんだ事もあったぜ。
いずれにしても、また何時か会える日が来るだろう。だがオレとの再会は、別に急がなくてもいいよ。こっちも天国で楽しみながら、のんびりと待ってる。ではまたね。
─彼のことだ、天国でもヒマつぶしに手紙に事寄せて、きっと昔話がしたいのだろう。