第 3138 号2009.03.15
「 クロッカス 」
クロッカス(ペンネーム)
春先に咲き始めるクロッカス。と言っても日本では鉢植で店先
に並ぶから、直接的な春のイメージが薄いかもしれない。イギリスでは庭に咲く花だったから、クロッカスの容姿に春の到来を感じた。
イギリスの冬は曇天が続く。樹間が灰色なら空まで同じ色。そんな丸ごと灰色の空間に、白、黄色、紫のクロッカスがいっぺんに咲き薫り、一斉に季節の衣替えを済ませてくれる。庭に咲くクロッカス達が夜空を彩る天の川にも似て、あまりに見事でとても美しかった。
この春を運んで来る健気な花に、よく小さな宇宙を感じた。クロッカスはちゃんと覚えている。春を憶えている。見えない法則が形となって、宇宙を私達に見つめさせてくれる。喧噪に紛れて気がつかないだけで、そこには宇宙が在る。
鉢植えのクロッカスを見かけると、あの庭先のクロッカス達を思い出す。瞬いてみると、あの頃の春に戻る。