第 3136 号2009.03.01
「 流し雛に乗って 」
真 紅(ペンネーム)
私の住む鳥取では、さん俵に男女一対のお雛様を乗せて川に流
して無病息災を祈る「流し雛」の風習があります。私は秋田で生まれましたが、実は、この流し雛に乗って鳥取まで来たんです。
えっ嘘だって?本当ですよ(笑)
大学を卒業した私はある会社の東京本社に採用になり、その後鳥取支社への出向を命ぜられ、着任しました。そこで私は同僚の男性と恋に落ち、そして結婚しました。
ここまではとってもよくある話です。
ある日、民芸品売り場を夫とのぞいていたとき、ある商品が目に止まりました。さん俵の上に赤いきれいな人形が一対のったそれを、私はとてもよく知っていました。なぜならば、私はまだ幼かった頃に父がどこかに出張したお土産だといって買ってきて、
部屋にずっと飾ってあったものと全く一緒だったからです。それが「流し雛」だと夫が教えてくれました。
そうです。私は、それと知らず何年も鳥取の流し雛を自分の部屋に飾り、朝な夕なに眺めていたのです。
とても不思議な気持ちになりました。いくつか受けた会社の中でその会社に採用になったことも、全国にある支社の中からたまたまそれまで一度も来たことのなかった鳥取に出向させられたことも、偶然ではなかったのでは?紆余曲折あった人生の中でひとつでも歯車が違っていたら、絶対に私は夫と出会わなかったでしょう。
この奇跡のような出会いは、きっと私のところに鳥取から流し雛がやってきたときから決まっていたのだと思います。体は飛行機で飛んできましたが、きっと私の魂は、流し雛が鳥取まで乗せてきてくれたのでしょう。ありがとう、流し雛さん。