第 3121 号2008.11.16
「 揺りかごをゆすりながら 」
入江 由希子(練馬区)
実家の納戸を片付けていたら、息子が産まれた時に使った揺りかごがしまわれているのを見つけた。籐で編まれたその揺りかごは軽く、家族の目の届く部屋に移動させて使うのに便利だったものだ。もう20年余り前から、この納戸で眠っていたことになる。
懐かしさから覆いをとって、揺らしてみるとどこからともなく子守唄が聴こえてくるようだ。私自身は息子に子守唄を歌ってあげたことは余り無く、CDまかせだった。私が子どもの頃母は子守レコードをよくかけてくれたうえに母自身が歌ってくれたのを今でも覚えている。寝つきの悪い私を寝かしつけるのは苦労したに違いない。母は初孫となった息子にもモーツアルトやブラームスの子守唄を唄ってはこの揺りかごを揺らしていたものだ。今でも子守唄の心地よいメロディーと優しい歌声には、癒される。
私はいつかこの世にさよならをいう時がきたら、子守唄を聞けたらと思う。揺りかごに眠るのは無理だろうけれど、懐かしい子守唄を歌ってくれる人がそばにいて欲しいと願っている。
それにしても、この揺りかご、もう一度くらい出番があるだろうか?晩婚化、少子化の波を乗り越えていつか「孫」と呼ばれる者が生まれてきたら、私が揺りかごをまたゆらす日が来るかもしれない。元気で健在の母は「ひ孫」に子守唄を歌ってあげる出番をひそかに待っているのかもしれない。