第 3115 号2008.10.05
「 虹の麓 」
AZEMI(千葉県市原市)
早起きして田んぼの方に散歩に出ると遠くの林の前に立つ家に朝日が当たって金色に輝いている。東から昇った太陽が何にもじゃまされずにまっすぐにあの白い家を照らしているんだなあ、と思い、「朝日の当たる家」という映画があったような気がする、といつも心の中で思っていた。
先日の朝も同じ道を歩いている時太陽が顔を出し始め、そのまばゆいオレンジの光を背中に受けて暖かくなった。そうしているうちに絹糸のような白い雨がサラサラと降ってきて前方の空半分がたちまち暗い灰色になってしまった。同時に、目の覚めるような七色の虹がフワリと現れた。
なぜかその事に気がつかず家路を急ぐ人に私は黙っていられず話しかけてしまった。
「奥さん、ほら虹が出ていますよ。よく見ると外側にもうひとつありますね。」
するとその方はふり返りながら
「まあ、大きくて見事ですねえ。何年ぶりでしょうか。虹を見るのは。こんなにはっきりしているなんて珍しいですね。全然知らずに帰るところでしたよ。」
と立ち止まりしばらく見上げていらした。
幼い頃、まるで綿帽子にほんのり色づけしたかのように浮かぶ虹を見て心が騒いだ。
「虹の橋を渡った所には何か不思議な物がありそう。いつかそこに辿りついてさわってみたい。」
と夢見た気がする。
けれど、目の前に出現したその虹の麓は意外なことに、いつも朝日をはね返してまぶしかったあの白い家だった。
まだ夜が明けたばかりの5時半、あのお宅の人達はご自宅が
七色に染まり半円状のアーチの出発点となって大空につながっていたことをご存知だったろうか。それともまだ夢の中だったのだろうか。