第 3114 号2008.09.28
「 写 真 」
匿 名
どうしてこんなに沢山のアルバムが積み上がったのでしょう。
いくら転勤族であちこちに移り住んだとしても、この数は何とかしなくてはと思い立ち、写真の整理を始めました。
自分のものはどんどん捨てられるのに、子供達の写真となると決心がつきません。それでも同じようなもの、ピンボケのものはビリビリ破いていきました。
「これもピンボケだけど、一体どこで撮ったものかしら?この川はどこ?子供達は何をしているの?笑っているようだけど……」
ふと一枚の写真に手が止まりました。目を凝らして見つめていたら、突然思い出しました。不思議な位にはっきりと。あの時の樹々の香り、空がビックリする位に青かったこと。そして、心地良く吹いていた風までも。これは20年位前、ある転勤先での最後の家族旅行先での一コマでした。
急いで帰らねばと主人は車を飛ばしていましたが、子供達は長時間の車に疲れ、飽きてきていました。それで、たまたま通りかかった美しい川辺で私達は休憩をとることにしたのです。夏の終わりの日差しは少し傾きかけており、木陰は涼しく、澄んだ水はキラキラと輝いていました。子供達は石を投げたり、足を水につけたりと実に楽しそうで、思わず撮った一枚でした。
ピンボケの写真なのに、川底で光っていた石まで見え、子供達の笑い声が聞えてくるようでした。
しばらくの間見つめていました。それからそっと破きました。
写真がなくても、私の目にはしっかりとあの光景は焼きついていて、忘れる事はないでしょうから。
十数冊あったアルバムは、六冊にまとめられました。今度、子供達とあの時の旅の話をしてみようと思っています。