「 ほんとうの強さ 」
ふ う(ペンネーム)
両親が旅行に行き、1人で留守をする事になった祖母の元に、私が用心棒がてら帰省しました。87歳の祖母は20代前半に戦争で夫を亡くし、その後女手一つで田畑を耕し、子育てをしてきた女性です。最近は庭の菜園の手入れが一番の楽しみだと聞いていました。
私が実家に辿り着いた時、久し振りに会った祖母が縮んで見え、私は心許なさを感じました。でもそんな祖母のお喋りは以前と変わらず朗らかで楽しく、心持ち安心しました。
帰省2日目、私は祖母と買い物に出掛けることにしました。
その時、玄関から出て来た祖母は腰を90度程曲げて歩き、今にも前のめりに倒れそうな姿勢でした。そこで祖母に
「買い物のついでに、杖を買う?」
と尋ねました。すると祖母は
「私は自分で歩けるよ。杖の代わりに、鞄に『石』を入れているから大丈夫なんだよ」
との答えが返ってきました。不思議に思った私は祖母の鞄の中を見せて貰い驚きました。鞄の中には拳大の石が3つも入っていたのです。祖母は「この鞄を、後ろに回した手でぶら下げて歩けば、前のめりに転ぶのを防げるんだよ」と言うのです。見れば確かに背後の鞄の重みで重心が安定して見えました。
私は、この祖母の行動から、祖母のプライドの高さが伝わり、祖母の行動に感服しました。
普段、笑顔の絶えない、とびきり優しい祖母。まさかその祖母が、他人や杖に容易に頼ったりすることをしないですむように、人知れず鞄に石を詰めていて、自力で歩ける工夫をしていたとは想像もしませんでした。そんな祖母の、本当の強さを感じる姿から私は、言葉を失う程の凛々しさをも感じました。
高価な服や流行の化粧を身に纏い自分を施すことで、自分を少しでも格好良く見せようとして来た私の、目先だけ、見せかけだけの「プライド」が急に恥ずかしくなりました。強くしなやかで、美しく誇り高い祖母。私の一番の「誇り」です。長生きして欲しいです。