第 3111 号2008.09.07
「 柿 の 木 」
山 崎 佳 代(高知市)
今年もこの柿の木に沢山の青い実がついた。
小さい頃、学校の休みごとに母の田舎にあずけられていた私は、祖父の作ってくれた庭の柿の木に吊るしたブランコに乗るのが楽しくてしょうがなかった。
農家だった祖父母と伯母は、毎日新鮮な野菜や果物を庭の畑や裏山からとってきて食べさせてくれ、自然に私の好き嫌いを克服させてくれた。
春には竹の子堀り、夏にはヤマモモ摘みや川えびとり、冬は餅つきと色々な事を楽しく教えてくれた。
三人は私が来るのをいつも首を長くして待っていてくれた。私の事をとても可愛がってくれ、私も三人の事が大好きだった。
やがて私は大人になり実家を離れると、母の田舎へ帰ることも少なくなった。
祖父母が亡くなり一人暮らしになった伯母は、毎年季節ごとに旬の野菜や果物を送ってくれた。あのブランコの柿の実も・・・。
伯母が癌で亡くなって二度目の初秋、誰もいなくなったこの庭の柿の木には、今年も変わらずたくさんの実がついている。まるで私を待っていたかのように。
結局、伯母とは会えずじまいだった私の夫となる人と一緒にこの柿の木を眺めながら、『柿の実が色づいたらまた食べに来るからね。』と心の中で語りかけた。