第 3103 号2008.07.13
「 旅の半ば 」
薄 井 利 予(ペンネーム)
暮れなずむ空
旅の半ば
車窓遠く過ぎゆく影絵のような家
窓の灯り
湯上がりの匂い
子供の笑い声
たわいない言い争い
やがて訪れる深い眠り
いつだったかずっと以前
あそこにいたことがあった
ずいぶん長い時が過ぎて
何を求めて去ってきたかも思い出せないのに
沸々と湧く懐かしさ
ただ通り過ぎるだけの場所
旅の終わりは眠らない街
暮れ残る空
旅の半ば
車窓遠く走り去る黒い鎮守の杜
寄り添う影
夏草の匂い
かすかな息づかい
確かめ合う肩のぬくもり
やがて訪れる実りの時
いつだったかずっと以前
あそこにいたことがあった
ずいぶん長く走り続けて
誰を追って別れてきたかも薄れていくのに
溢れるほどの懐かしさ
ただ夕暮れ時だけの幻の場所
旅の終わりは実らない街