第 3099 号2008.06.15
「 緑陰の道 」
髙木 瑞穂(中野区)
家の近くを、神田川が流れている。川にはセキレイや、冬には、マガモやカルガモがやってくる。
川の両岸は、遊歩道になっていて、車もバイクも入らない静かな道だ。
川沿いには、沢山の緑が植えられている。
サクラ、ハナミズキ、ツバキ、ツツジ、アジサイ、キンバイカ、スイカズラ、バラなどなど。
サクラは、川面に枝を伸ばして咲き、花吹雪や、水の上に花筏を見せてくれる。
遊歩道に沿って、家屋が立ち並んでいる。新宿から荻窪に向かう、青梅街道にかかっている淀橋の近くに、レンガ色のマンションがある。
このマンションの前に、晴れた日には、竹のベンチが置かれる。
いつもは素通りするが、ある時、一休みさせてもらった。
ベンチの上に、一冊のノートが置かれていて、表紙に“憩いのノート”―ご自由にお書き下さい。―と、書いてある。
めくってみると、子どもの描いた絵や、ベンチを置いてくれることへの感謝の言葉が書かれている。
私は、ノートを見たり、感想を書いたりしていた。すると、すぐ前の家の戸が開き、ロングスカートの女性が出てこられた。
お盆をもっておられる。すらりとした、優雅な物腰の、丁寧な言葉使いの方。後からご主人も、にこやかに出てこられた。
アジサイの葉の上に乗せられた、手作りの美味しい水羊羹、洒落たグラスに入った冷たい緑茶。
思いがけないご接待と、素敵な方々とお会い出来たこと、木陰のベンチ、川面や木々の葉を過ぎてゆく風。
私は、夢見心地のひとときを過ごしたのだった。