第 3093 号2008.05.04
「 旧 友 」
清水 とし子(ペンネーム)
昔観たフランス映画だったかに「旧友」というのがあった。女同士の友情を描いた映画で、若かった私は自分もこんな友情を培いたいものだと思った。
ある日のこと、宅急便が届いた。大きなダンボールだ。開けると、キュウリ、トマト、じゃがいも、大豆、と鮮やかな野菜が、パレットからこぼれた色彩のように現れた。高崎に住む友人からだった。早速、お礼の電話を入れると、「お父さんと二人で作った野菜で、無農薬だから食べてね」と、友の変わらぬ声が返ってきた。
若かりし日々、同じ職場で働いた友は、勤め始めて一年ほどで高崎へ嫁いで行った。その後、互いの生活に追われ、たまに電話で消息を確かめ合うくらいで、会わずに三十年以上の時間が流れた。お母さんを肝臓ガンでお姉さんを乳ガンで亡くした友は、自身も五年前に胃ガンを手術していた。あっけらかんと明るい声から、大病の影は感じられないけれど、ご主人と二人で無農薬の野菜を育て、出来る限り安全なものを摂取して健康に気をつけている様子が窺がわれた。そのおすそ分けに私もあづかっているのだ。
「うちの畑で採れた大豆だから、とても味がいいのよ」という袋いっぱいの大豆で、近ごろ得意とするポークビーンズを作った。
大豆の旨みが甘く濃い美味しいポークビーンズができあがった。
感謝しながら口に運び、四十年近くになる友との年月に思いを馳せる。
結婚式の日。新婚旅行に出掛ける友は、山吹色のパンツスーツでホームに立っていた。五月の風の中で若く晴れやかな友は輝いていた。目の前の鮮やかな野菜に、友と自分のその時が蘇る。そして、時間を越えて通い合う友情というもののうれしさを思う。
ふと、「旧友」という言葉を声に出してみた。