第 3088 号2008.03.30
「 桜並木 」
鶴田 楡(東京都多摩市)
カフェから見える桜並木で、若い母親が小さな娘の写真を撮
っている。入学に際し、満開の桜をバックに記念写真を、とい
うことらしい。
フォーマルなワンピースを着こみ、真顔でレンズを見つめて
いる少女のランドセルに目が奪われた。
鮮やかなターコイズ・ブルー。カラーランドセルが昨今の流
行だと聞いてはいたけれど、あんなお洒落な色まであるのね。
私が小学生の頃は、ランドセルは黒か赤に決まっていた。今
だったら、あの子みたいに好きな色を買ってもらったのに。
いい年をして、ちょっぴり一年生を羨んでいる自分が可笑し
かった。
突然、女の子が、「パパー!」と声を張り上げた。
母親を迎えに来たらしい男性が、並木の下を歩いてくる。駆
け出した少女が、はじけるような笑顔でその腕に飛びつく。
子を真ん中に、手をつないで帰っていく三人の後姿を眺めな
がら、私は自分の入学式を思い出していた。
桜が咲いていたかどうかは覚えていないが、新調のスーツを
着た若々しい母は、子供心にも自慢だったっけ。そして私たち
の隣には、やっぱり若くて頼もしい父がいた。
思い出すうちに、切実に戻りたくなった。あの一日に。素敵
な色のランドセルがなくても。