第 3082 号2008.02.17
「 涙探検 」
田中 佳世(京都府綾部市)
九歳の長女はマイペースで無口。コミュニケーションが苦手だ。我が儘に見られがちだが単に不器用な性格の持ち主である。
次女、五歳。こちらは間逆の性格。話し出したら止まらないマシンガントーク。社交的な性格だが、傷付きやすい繊細な面もある。
ひたすら読書をしている長女に寄り添って一人で話している次女。お互い満更でも無いらしく、周囲はいつも穏やかな優しい空気で満たされている。
ある日、長女が次女にきつい言葉を放った。自分の思いを上手く言葉に表せないもどかしさが、彼女の言葉を刃に変えてしまった。次女は余程驚いたのか、ただ涙が溢れていた。私は観察に徹した。涙は幾つも幾つも床に落ち、止まる様子は無い。
長女はその雫を指さし、話始めた。
「さあ、涙探検です。この涙は一体何処から流れているのでしょうか」
床、次女のスカート、セーター、頬、目元を順に指でなぞり、最後に長女は自分の口元を指差し、気付いた事を素直に言葉にした。
「ああ、涙の原因は、お姉ちゃんの言葉でした。謝りましょう。ごめんなあ」
涙探検って何かしら、と思っていたら急に謝られてしまった次女は、咄嗟に、
「いいよう」
と答えていた。
そして、同時にコロコロと笑い出し、数分後には何事も無かったようにいつものスタイルに戻っていた。
もし、私が二人の間に入っていたら、今度は私が長女を傷付けていただろう。子供は子供なりの解決策を持っている。それは、大人では考えも付かない様な素晴らしい方法であったりする。