「 妖怪ムコナミダ 」
関 京子(山口県下関市)
私が子育てで忙しかった頃、娘のしつけで心がけたのは、おどす様な叱り方をしないことだった。しかし、やはりそちらの方が効果が大なのは誰でも知っている。私も幼い頃、ちょっとこわい思いをして、物を大事にする心を親に培われた。その中の一つが「鉛筆大魔王」だった。文具を大事に扱わないと出て来るおばけで、姿は大きな緑色の鉛筆で目は三日月のように吊り上がっていた。大魔王は夜中に出て来て、机の引き出しをチェックするのである。そしてもう一つ、「米粒法師」というおばけ…お米を大切にしないと、これまた夜中に大挙して押しよせ、若い娘の黒髪をバッサリ切り取ってしまうのだ。しかし、これらのおかげで、私は文具もお米も大切にする娘に成長できたと思う。そんな娘時代の私が出会った、新たなる節約のおばけが、あの恐怖の「ムコナミダ」であった。
青年は、とある村で一番裕福なYという家の入りムコとなった。優しくてハンサムな彼、私一人しか子供のいなかった実家であれば、きっと鳴り物入りで歓迎したに違いない。しかし青年の前途は多難であった。彼の姑となった女は村一番のセレブでありながら、大変な節約家という人物であった。洗面所の石けんを手のひらにならすのは三秒以内、インスタントコ
ーヒーは一日に一杯しか飲ませてもらえなかった。ある日、青年はY家出入りの庭師の家に出向くことがあった。その時、庭師の妻の入れてくれたコーヒーのあまりの美味しさに、思わず涙を流してしまった。面食らう庭師夫妻…そう、この一すじの涙こそ、彼の姑の真の姿…「妖怪ムコナミダ」の大好物だった。この話をしてくれた人は、当時の私の職場の先輩だった。
私はその後結婚したが悪い予感的中…我姑様は、やっぱり妖怪「ヨメナミダ」であった。「歴史」はくり返されるという、最近ちょっと貫ろくの出て来た私。今は自分が第二の「ムコナミダ」になるのではないかとひそかに心配している。