第 3079 号2008.01.27
「 冬の朝に 」
柴田 激(茨城県日立市)
冬の朝陽が柔らかく射しこむ居間で、昨日と同じように、朝のコーヒーを飲む。
昨日と同じように、シャワーを浴び
昨日と同じように、愛犬の「ルチアーノ」と朝の散歩に行き
昨日と同じことのくりかえしなのに、まるで、ちがっている。
パンのすこし焦げた匂いと、コーヒーの香りは一緒なのに、まるで、違った時間がながれている。
居間の壁にかかっている、たくさんの家族の写真
まだ若く、初々しいママに抱かれ、はしゃいだ顔の君
十年のあいだ家族であった、犬の「パオロ」の甘えた顔
砂浜でたわむれる「パオロ」と、赤いスカートをはいた、まだ小さい少女の君
お祭りで浴衣を着て、弟の聡とすまして、手をつないでいる君
小学校の校門の前の、春の入学式の君
家族四人の、記念写真の君
スーツを着て、気取った顔の、大学生の君
白衣姿の痩せた、研修医のときの君
ママと二人、紅葉の嵐山の前の君
沢山の沢山の写真が、わが家の歴史
なぜか、新婚旅行へ出かけても、旅行が終わると、今までと同じように、また家に帰って来るような錯覚に、昨日まではとらわれていた。
昨日と同じ日が、また毎日続くと思っていた。
昨日と同じように、ビールで乾杯をして、夕ごはんを食べ
昨日と同じように、冗談をみんなで言い合って、笑い転げる
そんな日が、まだまだ続くような気がしていた。
昨日と同じように、コーヒーを飲んでいても、まるで、違った時間が流れている。
今日、花嫁の父になる。