第 3074 号2007.12.23
「 クリスマス 」
n y k (ペンネーム)
終戦後暫くは本当に食糧難の日々だった。
育ち盛りの私達三人兄弟にひもじい思いをさせないために、父も母も買い出しに行ったり、配給の列に並んだり、一生懸命だった。
そんなある年の12月24日の夜、誰に聞いたか一番上の姉が、
「こうしておくと、夜寝ているうちにサンタクロースがプレゼントを入れて置いてくれるのよ」
と靴下を自分の枕元に置いた。
それを見て、二番目の姉と私も慌てて箪笥の中から夫々自分の靴下を引っ張り出し、同じように枕元に置いて寝た。
翌朝、いつもより余程早く目を覚ました私達は、枕元の靴下が無くなっている事に気が付き騒ぎ出した。
すると物音に気付いた母が台所から、
「未だ起きちゃだめよー」
と叫んだ。
母がこんな事を言うのはこれまでに無かったことなので、私達は不審に思いながらも、素直に言う事を聞いて又ふとんの中に潜り込んだ。
程なく母が湯気の立った三本の靴下を両手に提げてやって来て、私達の枕元に置き、
「ハイ、もう起きても良いわよ」
と言った。
飛び起きてみると、なんと夕べ枕元に置いて寝た靴下の中に、蒸かし立ての大きなさつまいもが一本ずつ入っているではないか。
物の無い時代、サンタクロースのプレゼントを楽しみにしている私達のために、母が考えた窮余の一策のアイデアである。
ホカホカの甘いさつまいもの香りの中で、そんな母の想いを感じ取った私達は、「なーんだ」という言葉を呑み込んだまま、ニコニコと互いの顔を見詰め合っていた。