第 3073 号2007.12.16
「 クリスマスツリー 」
西本 明未(豊島区)
我が家には、10年間眠ったままのクリスマスツリーがある。
飾れば、天井につかえるほどの、みごとに大きなツリーである。アメリカ駐在の時、ガレージセールで安く購入したものだ。
日本に帰国した当初、地元の中学に通い始めたばかりの娘が言った。
「こんなの飾ったら、なんか恥ずかしい」
たしかに路地に面したリビングに飾れば、窓から大きなツリーがこれみよがしに見える。今でこそ、庭の植木に電飾をほどこす家々を見かけるが、当時は近所では皆無だった。
大きなツリーを窓辺に飾るのは、アメリカ帰りをひけらかすようで、気がひけた。
年々、物が増えると、ツリーは納戸の奥へ奥へと押しやられた。そのうち、出すことも面倒になり、ツリーの存在すら忘れるようになっていた。
昨年のクリスマスの日、娘は初めて彼氏を我が家に連れてきた。
優しそうな誠実な青年である。
今年の春、彼らはめでたく結婚し、若い彼らは今、我が家に同居している。
(今年はツリーを出してみよう)ふと、思った。
家族も増え、にぎやかなクリスマスを、ツリーは待っているような気がする。
成長した娘に驚いているツリーを想像すると、なんだか楽しい気分になってくる。
もしかしたら、来年のクリスマスには、お腹の大きくなった娘がツリーの飾りつけをしているかもしれない。そして、再来年のクリスマスはかわいい赤ちゃんがツリーの周りをハイハイしているかもしれない。
楽しいクリスマスはもうそこまできている。