「 女の子がやってきた! 」
匿 名
初めて、その女の子を見た時、うーんと首をひねってしまった。
赤いパーマの髪はバーッと大きく広がって、耳にはドクロのピアスがブラーン。発育のよい身体に流行ファッションをまとい、ゴロゴロとキャリーケースを転がしてやってきた。乾いた、投げやりな調子で「お願いしまーす」と言う。彼女に、着物の着方を教えるのである。(また、なんで着物を?)彼女に着物が似合いそうだとはつゆ思わなかった。
不思議は次々に解明していった。ある日、街で着物の女性を見たそうである。仕草が素敵!イイナ、私も着たい!と即行動。おばあちゃんが喜んで、蔵からあれもこれもと古い着物や帯を出してくれ、毎週のように「これはいつ着られますか」と私の所へ運んでくる。着物は蒸されたようにあたたかい。「これはどこに?」「車の中に入れっぱなしです」「まあ!」と目を丸くする事しばしば。半襟付けと聞けば明らかに面倒そう。
細かくくけなくていいよ、ざくざくで、とやってみせたら「それならできる」と針の運びもたどたどしく、縫い目は波のようでも「けっこー簡単でした」と満足げだが、はたして、衿芯はつっかえ、力ずくで押し込んで糸を切ってしまう始末。
彼女が初めて一人で着物を着た時のことをきっと忘れないだろう。鏡に映った自分を飽かずに眺めて「かわいい・・」と、こらえても笑みがこぼれてくるさまは本当に可愛らしく、私まで胸が熱くなった。何も知らないこの女の子には、着物の女性の所作を美しいと思い、ばあちゃんの着物をダサイと嫌う弟を「わかってないなぁ」と思う感性がある。あれよという間に着方をマスターしてしまった。嬉しくて、毎週、少しずつ細かいコトを言い足す。
さて、彼女はいつまで通ってきてくれるだろう。願わくば、変貌めざましい彼女の行く末を、もう少し見届けたく思うのだけど。なんだかオカシナ気分だな。私だって、ついこの前まで何も知らない女の子だったのにね。