「 我が家の定番 」
柳 さち(ペンネーム)
普通のまな板は6枚分はあるだろう特注のまな板、出刃包丁、西洋包丁、菜切り包丁。さあ準備万端整いました。我が家の餃子作りの始まりです。
義父 義母 嫁である私と、三人がそれぞれ包丁を持ちまな板の上に置かれた材料を、トット、トットと、リズムよろしく叩き、切るのです。
昨日までのギクシャクした嫁・姑の関係など、この音と共に飛んでいってしまいます。それどころか、今夜の家族の食欲を想像するだけで楽しくなります。隣のお宅と私の実家へ自慢の餃子をお配りし、小学生の2人の子供と主人の計6人家族で、150個の餃子は一晩できれいになくなりました。
今は、主人と二人。一袋25枚入りの餃子の皮を買い、以前と同じ味付けで作っても、翌日の中華スープの材料に回せるようになってしまいました。そんな日常に息子から友人3人を連れて帰省するとの連絡。もう、気持ちがソワソワ。息子が友人を連れてくることもだが、それ以上に百個の餃子を作ることのうれしさ。
久しぶりのトット、トットのリズム。
焼きが間に合わないくらい、若者達の食べっぷりはすごい。
「これが、噂に聞いた餃子ですか」
なんと気の利いたことを言う友人だろう。
「また、食べにいらっしゃいね」
ついついこちらも笑顔でこたえる。
そういえば、あの時・・・・
出産予定日が過ぎ入院を余儀なくされた時、義父がバイクで病院まで運んでくれた餃子は、義母が皮から手作りしたものでした。
形は不恰好ながら、噛みごたえがあり
「これは、お父さんが戦時中、中国で食べたという噂の餃子ですか」と、聞いたことがありました。
「退院したら、おばあさんがまた作ると言ってたよ」
老夫婦が孫の出産を待ちわびて居ても立ってもいられず、トット、トットのリズムで嬉しい気持ちを落ち着かせていたのかなと今になって思います。
子供達は、おじいちゃんの噂の餃子の存在をまだ知らない。
いつ言おうか、いつ作ろうか。
我が家の定番は、奥深いものがある。