「 握手 」
三原 長治(千葉県流山市)
数年前のこと、フランス観光で、オベルヴィユールというパリ中心部からかなり外れた街に宿泊した。ホテルの近くが、一寸したターミナルになっている。少し時間があったので、ターミナルに出掛けた。
広場があった。その一角の一寸大きな建物に、人が次ぎ次ぎと吸い込まれている。お年寄りが多い。何だろうと思って近づいた。教会だった。
そうだ、今日は日曜日だったのだ。
なかは、薄暗い大きな空間だった。美しい音色の賛美歌が聞こえてきた。心が洗われるような歌声だった。神父様のところだけ少し照明が当てられていた。外の雰囲気と教会のなかの雰囲気は全く異なった。賛美歌のあと、神父様のお話があった。どんなお話をされているのか、私には全く分からなかった。お話が終わった。お祈りが終わったのだろう。
と、そのとき、信者達は、お互いに握手を始めた。みんな相手を違えて握手をしている。そのうちに、信者達のうち数人が、最後列に離れて座っていたわれわれ夫妻のところにやってきた。そして、何やらつぶやきながら握手を求めてきた。赤銅色の肌のお年寄りだった。白髪髭が口いっぱいだった。何を言っているのか全く分からない。目が輝いていた。
にっこり会釈して私も握手を交わした。
彼は強い手で私の手を握った。ごつごつした節くれだらけの手だった。
私も負けじと強く握りかえした。次に彼は私の横にいる家内のところに行った。そう、何人かの人たちとこうして握手を交わした。彼らがなんと言ったかは分からない。行きずりの旅行者が好奇心でたまたま入って交わした握手。一目で東洋人と分かるわれわれに「おお、はらからよ」
と言ったのかも知れない。
その後、ロワール地方、モンサンミッシェルと観光で回った。しかし、どこに行っても、あの白髪髭のごつごつした手のお年寄りがそこにもいて、手を差し出してくれているような不思議な感じがした。