第 3038 号2007.04.15
「 「お帰りなさい」を言うために 」
今 村 圭 子(山梨県中央市)
私の職業は「母親」である。よく職業欄に「主婦」とか「無職」とか書いてあるけれど、どちらも少し違う。私の仕事は「母親」で、それ以上でもそれ以下でもない。
私はふたりの子供を育てている。もうすぐ12歳になる息子と7歳の娘である。上の子を産んでからだから、家庭に引き込んでもう10年以上になる。家庭の外に出て働く女性たちに羨望がないと言ったら嘘になる。在宅でできる仕事を細々とやりながら、こんなはずじゃない、もっと自分の能力を活かせる仕事があると何度思ったことか。自分の人生は他にあると思ったことか。けれど必ず後で思い直した。
例え社会に出て働いて、そこで活躍できたとしても、今より自由やお金ややりがいを手にしたとしても、私の代わりはきっと他にいくらでもいる。でも子供たちに「お帰りなさい。」と言って出迎えることができる母親はこの世に私しかいない。ドアを開けた瞬間、子供が見せる表情、笑顔や疲労や、時には少しのうしろめたさ。ランドセルと一緒に背負ってきたものを見逃したくないと思う。
私は帰宅した子供のために最初に作る飲み物を大切に思っている。
子供たちはそれを楽しみにして帰ってくる。例えば真夏のかき氷、よく冷えたサイダー、寒い日のココア。「ああ、早く帰りたい。」といつも、いつまでも思って欲しい。そのために私はここにいる。
私はただの「母親」だ。苦労は尽きない。でも十分、報われている。